TMK Alps64 w/ Tofu60 Build Log
以前Split ASK v2を作ったときに、「アクリル積層ケースはアルミ削り出しケースに比べると打鍵感・打鍵音に劣る」ということを書いた。その後、やっぱりアルミケースでALPSキースイッチを使ってみたいという思いが拭えなかったので、いっちょ作ってみることにした。
Alminium Keyboard Cases for ALPS Key Switches
2022年現在、ALPSキースイッチが使えるアルミケースの選択肢は限られている。
AEK64(買えない)
Aluminum AEK64 now available! : MechanicalKeyboards
角の丸い感じが可愛らしいケース。直結型プレート(インテグレーテッドプレート)という構造で、プレートがトップケースと一体になっている。5年前くらいに発売されたようで、今は買うことが出来ない。
Lunar(買えない)
先日ビルドログを書いたPolarisの作者でもあるai03氏による非常に美しいデザインのキーボード。こちらもインテグレーテッドプレート構造。2018年にGroup Buyがおこなわれた。こちらも今は買うことができない。
ちなみに現在、後継機種のLunar IIのIC (Interest Check)がおこなわれている。というかもうすぐGB (Group Buy)が始まる。前作同様の曲線が美しいデザインはそのままに、こちらはインテグレーテッドプレートではなく、一般的なPoker互換のトレイマウントになるらしい。発売されたら是非欲しいケースである。
Poker互換ケース(買える)
GH60などに代表されるPCBを収めるための60%汎用キーボードケースというものがあり、Poker互換ケースと呼ばれている。こちらは安いものから高いものまで様々な製品が存在して販売されているので、入手しやすい。前述のLunar IIもある意味「超高級なPoker互換ケース」と言える。
AEK64、Lunarをなんとか入手してみたいところだったが無理だったので、今回はPoker互換ケースとそれに合うPCBを用意することにした。
トレイマウント
プレートマウント方法とスイッチとの相性情報 – Self-Made Keyboards in Japan
Poker互換ケースはいわゆるトレイマウントと呼ばれる構造。一般的にトレイマウントはあまり打鍵音や打鍵感が良くないとされているが、前述のLunar IIやMekanisk Fjellなどのように、トレイマウントの高級カスタムキーボードも存在しているので、一概に良くないとは言えないのかも知れない。
また、これらの記事を読む限りではトレイマウントでも手間暇をかければ良い打鍵音・打鍵感にすることができそうである。
パーツ集め
組み立てに必要なパーツを集めていく。この組み合わせを考えているときが一番楽しいかもしれない。
ケース
KBDfans Tofu60 Aluminum 60% Case – KBDfans® Mechanical Keyboards Store
ケースは選択肢も多く、悩んだが、値段とデザインのバランスの良いKBDfans Tofu60にした。
カラバリが多く、どの色にするか悩んだが、E-Grayにしてみた。角が立ったソリッドなデザインで、シンプルでいい。塗装の質感も高く、落ち着いていて良い色である。
ウェイト
Tofu60には内部にウェイトを仕込めるスペースがあるが、そのウェイトがどこにも売っていない。なんとなくメルカリを見ていたらステンレス製のウェイトを自作して出品している方がいたので、購入してみた。重量は約240gとのこと。
PCB
[TMK] Alps64 – 60% PCB for Alps
Poker互換ケースでALPSキースイッチが使えるPCB。
注文して届いてから気づいたが、USBポートがType-CではなくminiUSBだった。まぁいいけど。
プレート
プレートはTMK Alps64のgeekhackのスレッドからFR-4(PCBと同じ素材)のものが買えるが、今回は打鍵感を追求するため、それは買わずに真鍮プレートを用意した。
tmk/alps64_plate: KiCAD design for Alps64 Plate
公開されているプレートのデータを元に、Laserboostに発注した。ALPSキースイッチ用に厚さは1.2mmにする必要がある。
届いたプレート。
ところでLaserboostで頼んだ真鍮プレートは、特にサビ止め加工のようなものはされていない。つや消しクリアのラッカースプレーで手が触れても酸化しないようにしておいた。
フォーム
打鍵音を上質なものにするために、プレートとPCB、PCBとケース底面の間にそれぞれフォームを挟むことにする。
- KBDfans module foam – KBDfans® Mechanical Keyboards Store
- DZ60 Soldered Case Foam – KBDfans® Mechanical Keyboards Store
KBDfans module foamがプレートとPCBの間に挟むやつ。DZ60 Soldered Case FoamがPCBの下に敷くフォーム。
Apple Extended Keyboard II(のキーキャップとスタビライザー)
キーキャップとスタビライザーを入手するために、Apple Extended Keyboard II M3501を手に入れた。
これがApple Extended Keyboard II M3501。Extendedというだけあってかなりデカい。
ちなみにこれは日本版で、キーキャップが日本語表記になっている。タイミング的にこの個体以外に買えなかったのだが、やっぱり英語しか書かれていないキートップが良かったので、後からもう1つ買い足した。
今回は2台目の英語表記のものを使うことにした。日本語表記のキーキャップは、また新しくキーボードを作る時に使おうと思う。
ちなみに、M3501のキースイッチはSKCM White Dampedというもので、個人的にはあまり魅力を感じないスイッチだった。以前、AK62とSplit ASKを作ったときにApple Standard Keyboard M0116から入手したSKCM Orange / Salmonがあるのでそちらを使うことにする。
キースイッチ
上に書いたように、数台のM0116から取ったSKCM OrangeとSKCM Salmonを持っている。どちらも好きな打鍵感なのでどちらを使おうか悩んだが、今回はSKCM Orangeを使うことにした。
ALPSキースイッチのLube
ALPS SKCM Orange、Salmonともに分解洗浄して、スプリングを交換して、Lubeしてある。
ちなみにALPSキースイッチの構造や分解については、以下の記事あたりを見ておけばなんとかなる。
- ALPS SKCM/SKCL – Self-Made Keyboards in Japan
- 板ばね機構 Leaf Spring Mechanisms – keyboard research
- ALPS メカニカルキースイッチとその歴史 – The Rank of F
- ALPSメカニカルスイッチ(BigFoot) 概要
- ALPS
分解したところ。複雑な構造をしている。右下の2つのパーツの板バネの角度がかなり重要で、少しでも角度が違うだけで接点不良になったり感触や音が変わってしまう。よく言われているように、かなりコストがかかっているキースイッチだと思う。
ハウジングとステムはルービックキューブ用のCubicle Labs DNM-37という潤滑剤でLubeした。
ALPSスイッチのLubeにはスムースエイド RO-59tmKTという潤滑剤が定番と言われているが、もうすでに生産が終了してしまっている。代わりになるもの(フッ素系水性潤滑剤)を色々探して試したところ、偶然見つけたDNM-37がとても良かった。ALPSキースイッチのLubeをしたい人には是非おすすめしたい潤滑剤である。
上の写真のように、ハウジングやステムに潤滑剤を筆などで塗布する。MXキースイッチに塗る潤滑油のようにヌルっとはしておらず、サラサラとした液体。乾くまで半日から1日くらいかかるので、結構時間がかかる。Lube前は結構ガサついていた感触がLube後はかなり滑らかになり、とても満足度の高い結果になった。
ちなみにめちゃくちゃやる気があれば、二度塗りするとさらに良い結果が得られる。個人的な体感ですが、RO-59tmKTの二度塗りとDNM-37の一度塗りが同じくらいの滑らかさだった。
また、やはり年代の古いキースイッチということで、スプリングも劣化しているのか、個体によって押下したときの重さや感触にバラつきがあるのが気になったので、スプリングも交換することにした。
SPRiT DesignsのALPS用のスプリングを用意した。押下圧は55cN。以前購入したときは24金が選べたが、最近はステンレスしかなさそう。MXスイッチと同じく、Krytox GPL 105でLubeした。
これはAK62を組んだあとにスプリングだけ交換している様子。SKCM OrangeではなくSalmonだけど。個体ごとのバラつきがなくなり、打鍵感も上品な感じになったので満足している。
組み立て
いざ組み立てていく。
ダイオードを折り曲げる。TMK Alps64に付属していたリードベンダーが可愛い。
ダイオードをはんだ付け。
プレートにキースイッチを挿す。
KBDfans module foam。プレートを裏返し、キースイッチを囲むようにこいつを貼っていく。
貼り終えたところ。MXスイッチとALPSスイッチでは微妙に寸法が違うのか、キーが密集しているところにはうまくフィットしなかったので、切ったり貼ったりしてなんとかした。
PCBをかぶせ、キースイッチをはんだ付け。
スタビライザーをつける。
写真を撮るのを忘れてしまったけど、スタビライザーの金具とプレートが当たる部分にマスキングテープを3重にして貼って、打鍵感向上と静音化をおこなっている。
Poker互換ケースにはPCBを固定するためのネジ穴が6箇所あるが、中央の2箇所のネジを留めてしまうと打鍵感が損なわれてしまうらしい。なので、写真のように中央の2つのネジ穴はニッパーで切り取ってしまった。
またまた写真を撮るのを忘れてしまったが、ウェイトを両面テープでTofu60にくっつけた。
ケースフォームをケースに敷く。
打鍵感・打鍵音の向上のため、ネジ穴とPCBが直接触れ合わないようにする。Tofu60に付属していたネジ穴用シリコンカバーを上部2つのネジ穴にとりつけ、下部両端の2つのネジ穴には、module foamの余りを切って、写真のように貼った。
プレート&PCBをケースに載せ、ネジで留める。ちなみに、Tofu60に付属していたM2ネジだと、フォームやネジ穴のクッションのおかげで長さが全然足りなかった。M2x5mmのネジを追加購入して無事PCBを固定できた。
あとはキーキャップを嵌めて、完成!
AEK IIのキーキャップのレトロな感じとTofu60のグレーがよく似合っている。もっと高いPoker互換ケースもあるけど、Tofu60のミニマムでソリッドなデザインはかっこいい。
打鍵感と打鍵音も、やはりアクリル積層ケースよりは圧倒的に良くなったので満足している。
アルミケースで剛性が高まったのと、ウェイトで重量が増えて安定感が上がったことで、キースイッチの感触がダイレクトに指に伝わってくる感じがして心地よい。
音に関しても、ちゃんとフォームを挟んでいるので、ある程度抑えられている気がする。もちろんAPLSキースイッチは元からうるさいので、ある程度ではあるけど。でも嫌な音はしていない……と自分では思う。
ケースの中央の2箇所のネジ穴を潰してしまったけど、これのおかげで適度にプレート&PCBがしなって、打鍵感の向上に繋がっている気がする。もっとも、ネジ穴に近い両端付近はしならないので、そこは少し固い打鍵感になっている。ネジ穴とPCBの間に挟むクッション素材をもっといい感じのものに変えれば、感触は良くなるかも知れない。
満足度は高いが、やはりどうしてもLunar IIやMekanisk Fjellといった高級Poker互換ケースの存在が気になる。Lunar IIはもう少ししたら開催されるGBで無事購入できるかどうか。もし買えなかったら、Fjellを買ってみたい。とにかく円安なのが辛い昨今である。