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Split ASK v1 (Split 60% Apple Standard Keyboard)

Split ASK v1 (Split 60% Apple Standard Keyboard)

2019/9/21

先日作ったAK62の発展として、その左右分割版のようなキーボードを作った。
名付けてAplit ASK(Split 60% Apple Standard Keyboard)。そのまんまである。

設計方針

  • M0116をベースにする
  • 60%(テンキー・Fキーレス)
  • 真上から見たときに筐体が見えないデザイン
  • PCBをトッププレートとボトムプレートで挟む
  • トッププレートとボトムプレートはステンレスにする
  • 左右分割型
  • マイコンボードはProMicro
  • 前回の失敗を改善する
    • PCBにスタビライザの穴は開けなくていい(ALPSスイッチのスタビライザはトッププレートに取り付けるので)
    • ネジ穴の位置をよく考える(打鍵感に影響するので)

だいたいこんな感じ。AK62をブラッシュアップして左右分割型にしたようなイメージのキーボードを作ろうと思う。

レイアウト

まずKeyboard Layout Editorでレイアウトを考えた。

左右が分割された以外はほぼAK62と同じだけど、違うのはスペースバーとバッククオートキーの位置を入れ替えているところ。
本来はCmdキーの右隣にバッククオートキーがあるんだけど、そのままにすると、左手側にあるスペースバーがかなり飛び出てしまい、見た目的にあまり良くない。
幸いにもM0116のスペースバーは4.75uという特殊な長さである。一般的なキーボードのスペースバーはだいたい6uとか7uで、それに比べるとかなり短い。バッククオートキーを右手側にやることで、左右のバランスを許容範囲なレベルにすることができた。

PCBの設計

今回もfoostanさんの「自作キーボード設計入門」を参考にさせていただいた。

回路図の作成

左手側
右手側

左右でそれぞれ別のプロジェクトを作り、回路図を作成した。AK62と違うところは、左右を繋ぐためのTRRSジャックが必要なところ。これも自作キーボード設計入門の通りにやれば問題ない。

前回は1つのPro Micro62キーを繋がなくてはならなかったけど、今回は左右で1つずつPro Microを使うので、29キー/33キーを繋ぐだけでよく、特にマトリクスを工夫する必要もなかったので楽だった。

アノテーションして、エラーチェックして、フットプリントを割り当てて、完成。

基板の作成

前回はM0116が手元に無い状態で設計をしたので色々と不備があったけど、今回はM0116(の残骸)もあるし、AK62もある。実物を観察しながら基板を作成することが出来たのでスムーズだった。

まず、Keyboard Layout Editorで考えた通りにキースイッチを並べていく。Pro Micro、リセットスイッチ、TRRSジャックも配置する。
ネジ穴もレイアウトする。今回は、PCBは直接ネジで固定しないことにした。トッププレートとボトムプレートをM2ネジとM2スペーサーで固定し、PCBにはスペーサーの径より少し大きい穴を開ける。トッププレートに固定されたキースイッチでPCBを吊るという構造。ネジとスペーサーも必要最低限で済むし、この方がキースイッチの底打ち感が減少されるのではないかと思ったから。

その状態で全レイヤーをSVGで書き出し、Illustratorに読み込んで、基板外形を描いた。

トッププレート
ボトムプレート

フットプリントを手がかりに、パスを引く。
トッププレートにはキースイッチとスタビライザーとネジの穴を開ける。ボトムプレートにもネジ穴を開ける。M2ネジを通すなら2.2mmの穴を開けると良いらしい。
今回はトッププレート/PCB/ボトムプレートの外形はまったく一緒なので、ボトムプレートからネジ穴を消したものをSVGで書き出して、KiCadにインポートして、配置する。

左手側
右手側
左手側を3Dビューアーで表示
右手側を3Dビューアーで表示

基板外形を配置して、配線、GND塗りつぶしも終わらせたところ。配線は今回も自動配線ツールのfreeroutingにお世話になった。

これで完成!

発注

PCBはElecrowに発注した。トッププレートとボトムプレートはステンレスにしたいわけだけど、LaserBoostに発注した。トッププレートは1.2mm、ボトムプレートは2mm。LaserBoostはALPSスイッチにちょうどいい1.2mm厚のプレートがあるので助かる。

その他のパーツはAK62のために用意して余ったものを使い、TRRSジャックは秋月電子で購入。

組み立て

届いた基板とプレート。

ダイオードのはんだ付け。

リセットスイッチとTRRSジャックのはんだ付け。

この段階で、PCBの動作チェックをする。Pro Microとコンスルーをはんだ付けして、PCBに取り付ける。左右をTRRSジャックで繋ぎ、左側のPro MicroにUSBケーブルを接続する。
基板の発注から到着までに作成しておいてSplit ASK用のQMKファームウェアを焼き、各キースイッチの穴をピンセットとかで触り、導通チェックをする。

無事に全部のキースイッチがちゃんと動作していた!めでたい!

トッププレートにキースイッチを挿していく。

挿した。

書いていなかったけど、M0116はAK62用に買ったものの他にさらに2台用意した。1台はピンク軸(サーモン軸)で、もう1台はオレンジ軸。今回はサーモン軸の方を分解して流用。

ALPSキースイッチのLubeなどについてはまた別の機会に書きたい(このポストがの長さが倍くらいになってしまうので)。

キースイッチをはんだ付け。

トッププレートとスペーサーをネジ留めし、ボトムプレートをスペーサーとネジ留めする。ネジはちょっと贅沢に真鍮製のおしゃれなものにしてみた。といってもAliExpressで買ったので、そんなに高くはない。

ゴム足をいい感じの場所につけて、完成!


感想

やはり左右分割型は良い

もともと自作キーボードに興味を持ったのは、左右分割型キーボードの存在だった。肩が開くので姿勢が良くなり、首や肩に良い。右手がマウスに近くなって作業がしやすい。左右の間にペンタブとかiPadとかマグカップとかカップ麺を置ける、などメリットが多い。

みんなもキーボードを割っていこう。

ステンレスは硬い

トッププレート・ボトムプレートをアルミにするかステンレスにするかで悩んでステンレスにしたけど(ステンレスの方が安かったから)、正直言うとアルミにすれば良かったなぁと思う。というのもステンレスはやはり硬く、打鍵したときにかなり指に衝撃が来るので、長時間タイピングしていると指が痺れるような感覚がある。
AK62は当初はミスってトッププレートをアクリルにしたものの、後でアルミプレートにしたんだけど、こちらはかなりソフトな打鍵感で気持ちよく打てる。ただAK62はボトムプレートがアクリルで、それの影響もあるかも知れない。まだ上下ともにアルミプレートというのは試していない。

右手親指がキツい

レイアウトを見ると分かるが、右手親指に相当する部分にキーが存在しない。スペースバーと入れ替えたバッククオートキーも、もう1u隣にあればな…という感じで、ちょっと無理しないと右手親指で打鍵することが難しい。

Split ASKを使ったあとにCorne Cherryなどを使うと、いかに打ちやすい場所にキーが配置されているかがよく分かる。
とはいえ、このキーボードに関してはM0116をいかに原型を留めたまま左右分割型キーボードにリファインするか、というのが肝なので、ここが妥協点という感じである。悩ましい。

ちなみに、QMKで、右手親指部分にあるバッククオートキーには、EnterとShiftを、その隣のバックスラッシュにはCmdキー(かなキー)を割り当てている。右ShiftをFnキーにして、Fn + バッククオートで、バッククオートを入力する。
Enter、Shift、かなはよく使うので、右手親指でそれらを入力することで他の指(主に小指)の負担を軽くすることができる。

LubeしたALPSスイッチは最高(音はうるさい)

上でチラッと書いたけど、オリジナルのM0116から取り外したキースイッチは、分解洗浄してからLubeしている。かなり大変だったけど、それに見合うだけの素晴らしい感触。MXスイッチのシンプルな上質さとはまた全然違う、古いからこその良さというか、昔の機械式フィルムカメラのような、パーツが密集しているから生まれる手触りの良さというか、そういうものが感じられると思う。
でも打鍵音はかなりうるさいので、深夜のタイピングには向いていない。

ALPSスイッチについてはまた詳しく書きます。

打鍵感・打鍵音と見た目の両立は難しい

自作キーボードに興味を持ったとき、キーボードを真上から見てキースイッチ以外に一切なにも見えない、つまりベゼルレスなデザインに強く惹かれた。それがカッコいいと思っていたので、キーボードキットを選ぶときも、AK62やこのSplit ASKを作ったときもベゼルレスなものにした。

ベゼルレスにするということは、必然的にトッププレート・PCB・ボトムプレートは同じ寸法になり、3枚をサンドイッチのように挟むような組立方法になる(サンドイッチマウントと呼ばれる)。

しかしそうすると、プレート間の隙間から、キースイッチの音や打鍵時にトッププレートが出す音などが一切遮られずに響くことになり、打鍵音が大きくなってしまう。キーボードの打鍵音を良くしようとすると、そういう音を遮音していく必要がある。となるとサンドイッチマウントでは隙間を埋めるのが難しく、結果的にベゼルが必要になる。

……というように、自分でキーボードを設計してみて初めて分かったことがあった。好きなのはベゼルレスなデザインだけど、ベゼルレスの打鍵音は好きじゃない、ということ。End Gameはまだまだ遠そうである。


設計部分は前回のAK62の反省点をほぼクリアできたので満足だけど、打鍵感・打鍵音というところではもっと良いものを作ってみたくなった。
ということで次回はこのSplit ASKをさらにブラッシュアップした話。
続く。